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脱いでしまいたい、あるいは、服そのものへ!

小野原教子

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Vol.2 今日の服、明日の服―尾原蓉子さんが教えてくれたこと (2002,2,25)


今日から国公立大学の二次試験がはじまる。わたしは英語の採点にこの月末は缶詰になっているはずで、月二回と決めたここの更新を少し早めにやることに決めた。

いろいろと今回はタイトルを迷ったのだが、ここは「週刊ファッション情報」だから、具体的に、大先輩の尾原さんのお名前を、出すことにした。尾原さんは、日本にファッション・ビジネスを輸入し会社時代お仕事をご一緒させてもらったこともある。以前のファッション論でも、「ブランド」の話のときに尾原さんの言葉を書いたことがあったが、今日は尾原さんがわたしに教えてくれたことでいまも心に唱えている言葉を中心に書きたい。現在、財団法人ファッション産業人材育成機構の教育組織であるIFIビジネススクールの校長をされている。去年偶然NHKの「視点・論点」でお話されているのをテレビで見て、生き生きと仕事されているご様子は、わたしにも力強い励みになった。

先日、所属している大学の先生からこういうことを聞いた。「うちのゼミ生で就職先にファッション関係を志している学生がいて、彼らの情熱はすごい。自分はまったくわからなくてどうしようもない」。わたしは、自分で役に立つことがあるのならと「話を聞くことこちらは構いません」と言い、学生の相談に乗ることに決めた。大学の研究室はまだ1年しか過ごしていないに関わらずすでに雑然としており、人を招ける状態ではない。そこで、神戸の三宮で待ち合わせることにし、就職説明会の帰りだという学生たちとスターバックスで大好きなキャラメルマキアートを食べ飲みしながらいろいろ話をした。お茶くらいご馳走したかったが、財布には1200円しか入っておらず会議が終わってすぐに駆けつけたのでお金をおろす時間がなかった。こういうところなかなか院生時代の気分が抜けてない。学生には申し訳なかったなあ。

印象的だったのは、みんなすぐに自分の希望する仕事につける、と考えていることだった。まだ三年生なのに、もう就職活動をしなければならないのは気の毒だなあという気持ちもあるし、この時期に自分の希望を明確化しておかねばならない状況も殺生なことだと思う。けれど、この就職難の時代には、就職する段階で要求されていることが厳しくなってきているのだろう。コンピュータ能力や英会話、そして明確な態度―「やりたいこと」より「できること」―すぐに結果が求められている状況のようであり、そういう人材でないと競争に勝てないのだろう。

わたしは尾原さんが話されたことで、話を聞いた日からずっと自分に意識づけてきた言葉がある。それは大阪天満橋にあるアパレル・メーカーが開催場所になっていた講演で聞いた。

「今にとらわれず、つねに10年先、20年先の自分をイメージして日々取り組むべきだ。その自分をイメージして、この5年間で何をしておくべきか、この3年で、この1年で、この1ヶ月で、この週で、というように目的を掲げて毎日を生きていかなければならない」

これは女性とキャリアについての講演だったと記憶している。わたしはこれを聞いた次の日からそして今現在も、先を見て目的化した現在を生きていこうと決め実践しているつもりである。


学生の相談に戻ると、5人の学生のうち、靴が大好きな男子学生がいた。彼の目は真摯な気持ちに満ちていて、現在老舗の靴メーカーで販売のアルバイトをしているようだった。目的を掲げることも大切だが、今何が自分は好きなのか、も大切だ。以前の「ファッション論」上でもたびたび書いてきたが、自分の好きなもの、好きなこと、を見つけ、自分とその対象が作っている世界を守り続けることが大切、ということを、彼の話を聞きながらあらためて考えていた。説明会の帰りのわりには個性的な格好をしていた女子学生がいて、就職活動時の自分を思い出して苦笑いなどした(わたしの時代は春先から夏が就職活動の本番で、紺とグレーのクールウールのスーツにまじってアン・クラインの白い麻のスーツを着てのぞんだ)。彼女はインテリアや衣料雑貨にとても興味があるという。販売のバイト経験もあり、ものを売るということに興味をもつ学生、建築・インテリアデザインなどに興味をもつ学生、2人はいまどきの男の子なんだろうのんびりしたマイペースな印象である。
女の子が地元志向なのはわかるが、男子学生たちも関西での就職を強く望んでいたのに、わたしは驚いた。あとはとてもキュートできっと企業向きだなあと内心思っていた話言葉のコミュニケーションがとても上手な女子学生がいて彼女は「色」が好きで、「色」に携わる仕事がしたいという。

一通り話を聞いたあと、自分の就職活動の経験とジェネラルに通じる就職面接でのアドバイスをしたが、3時間近くしゃべって、最後にわたしが彼らに言ったのは、「今すぐにやりたい仕事につけると思わずに、希望する職種に近づけるような道を作るつもりで、会社を選んだらいいんじゃないか」ということだった。企画でもバイヤーの仕事でも、新卒の社員にまかせられることなど滅多にないし、まかせられてもできるわけがない、まず自分が扱いたいものに一番近いところを選んで、そのなかで一生懸命働くことが大切だ。一生懸命やっていればチャンスはあるはずで、専門知識を身に付けるために自分でつねに勉強をするという姿勢を忘れたらだめだ。などなど、とてもえらそうなことを言った。わたしは、会社に入ることだけではなく、いわゆるフリーターでも道のスタートになるならばいいじゃないか、というとても模範的とはいえないアドバイスもした。

今辛いなら明日もつらい。いま幸せでないといつ幸せになるのだ。そういう現在主義的な言葉も自分のなかには持っているのだが、先送りしなければならないことは、人生にいっぱいある。あるいは、先送りすることによって、不確かな一歩ではあっても少しずつ進んでいけば確実に道になって、それがいつかぱっと未来への光の筋を開いて見せてくれることもある。老い若いに関わらず、悩むことはいっぱいあるけれど、今現時点自分は間違っていないだろうか、何を目指して今があるのか、とわたしはいつも問うている。それは人である限り服を着ていることと同じなのだ。外(社会)に出るとき、わたしたちは自分でその日の服を選ぶ。今日はこの服でいいだろうか、とあれこれと服を着替えながら、でもやっぱり外へ出て行かねばならないのだ。

いざ生きめやも、服を着て。

2002,2,25

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