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脱いでしまいたい、あるいは、服そのものへ!

小野原教子

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Vol.40 失われた重さを求めて ― ゴシックロリータのサマータイム (2006,5,7)


女の子たちのための

春が来て、もうすぐ夏、ちょうど何着ようかなあと迷うのが、この季節。寒かったり暑かったり雨降ったりと、冬以外のすべての季節が一度に訪れるようなそんなシーズン。ゴールデンウィークに賭ける、といいながら、仕事をあとまわしにずっとしてきたが、結局休日はだらだらと過ごしてしまい、自己嫌悪に陥りながらこのエッセイを書いている。

連休入ってすぐ、知人のゴスっ子の女の子から前日に連絡もらい、行ってきたのが「女の子たちのための文化交流会」。題して「おしゃれ文化祭」。神戸にある海のそばの倉庫を利用した「TEN × TEN」という会場のなかで行われた一日限定のイベント。主催はJane Marpleを扱うショップ、アヒルヤアパートメントというブティックだそう。わたしも古い西洋下着を置いているので何回か訪れたことのある神戸のお店だ。

この日はロリイタ少女勢揃いで、ファッション・ショーもおこなわれる。会場にあらわれた少女たちが特に可愛くて目を奪われる。スカート、靴、バッグ、すべてが重そう。色は白を中心に、黒、ピンク、ブルーなど、レースやリボンでひらひらしているので、ファッションのヴォリュームは軽やかだ。

わたしは遅れ、ショーはほとんど見られなかった。この日はやや汗ばむ陽気で、何を着ていくべきかと悩んだのだ。いわゆるゴスロリファッションは秋冬向きではないか。彼女たちのファッションは夏に不向き、あるいはその季節は厳しいのではないか、と以前から思っていた考えがふとよぎった。

わたしの扮装は、この日はじめておろしたエナメルの黒いストラップ付きの靴、光沢のある細くて白い糸で織られた靴下、研究発表の後に自分の褒美にと東京で買ったちょうちん袖のブラウス、襟のシャーリングがたまたま今年風に入ってるデニム素材のジャケット、ベロア素材の裾拡がりのパープルのパンツ。靴以外はすべてヴィヴィアンウェストウッドだった。

フリーマーケットのような趣きにも思えるそのスペースには、かわいい店がひしめきあっている。ショーで商品を紹介していたらしい衣装の出店、ロマンティックな雑貨や小物、普段はネットで通信販売しかしていない手作りのヘッドドレスやヘアピンの作家のブースや、占いコーナーなどもある。

どこかで見たことあるなあと思ったら、普段よく買っている古着物屋のアルバイトの女の子がいて、この日はモダンで派手目の着物を出店していた。そういえばイベントには、着物を着ている女の子たちもいた。

ショーが終わり、この日のイベントのための出店をざっと見たあと、さらに倉庫の奧に入っていく。帽子やバッグ、アクセサリーなど新しいファッションから、廃材をそのまま利用して作られた家具、伝統的な染め物のコーナーなどもあり楽しめる。喉が渇いたら倉庫内でコーヒーを飲めるところもあり、その日はちょうど琵琶演奏が行われていた。

「TEN × TEN」は、10×10=100の意味がこめられ、ヴァラエティに富んだわくわくしたスペースになるようにと名付けられ、様々なジャンルのアーティストが個性的なお店を出しており、運営はNPO法人のようだ。

わたしは、ちょうど気に入った革ひもがあって購入。最近アクセサリーを作ろうと買っていたクリスタルに合う紐を探していたのだが、「履きだおれ」の神戸らしく、ハイヒールなどのデザインの繊細さを出すために使われる、その店オリジナル製品の革ひもらしい。色もシックでたくさんあって迷う。

焼き菓子のいい香りがしている。話題の洋菓子店らしい。誘惑に負けて一緒に出掛けた友人と立ち止まってお菓子を購入。歩いてすぐ波止場だから、そのまま外へ出て、海風に吹かれながら神戸の景色を楽しんでみるのもいいかもしれない。作品を出展するクリエイターも募集中のようだ。

http://www.h6.dion.ne.jp/~ahiruya/index.html (アヒルヤアパートメント)
http://www.k-anchor.org/  (波止場町 TEN × TEN)

 

英語で巡るゴシックロリータの聖地

そもそもわたしがゴスロリファッションのことを研究しはじめたのは、ヴィヴィアンウェストウッド研究をしていたからで、特にこのファッションスタイルで密接に関わる音楽が自分の嗜好と大きく重なっていたからというのが主な理由だ。

ひとことでいうと、イギリス文化の再解釈ファッション。現代日本ひいてはグローバルなイギリス趣味であり、それはイギリス人がイギリスマニアに、日本人が日本マニアになるのと同じような現象が起きている。急激な近代化(西洋化)が起こるときは、過剰にそのスタイルが取り込まれてしまうことがある、と言ったのは風俗史家でプロレスマニアの井上章一氏だが、いままさにそのことをわたしもこのファッションスタイルを通して考えている。

7月にある大学でゴスロリファッションを紹介することになった。それも英語で講演する。一緒に仕事してもらうことになった今東京をフィールドに研究しているイギリス人と、この連休を利用して一緒に心斎橋をまわることになった。いまや世界の言葉にもなった gosu-rori は、発祥が大阪だという。わたしの聖地だったヴィヴィアンウェストウッドを扱っていたア・ストア・ロボットのあった場所は、ロリイタ・ファッションの王道Jane Marpleに変わっていることくらいしか知識はない。

あとは、研究資料用に買っている雑誌に載っているショップの知識くらい。で、またもや、知人のゴスっ子の女の子に知恵を拝借し、今おもしろいところ、教えて、行ってきます、と連絡。そういえば上記のイベントで会ったときの彼女は、わたしの知らない彼女になっていた。つまり、もはや退廃の黒(ゴス)ではなく、甘くて白いふわふわ少女(ロリ)になっていたのだ。わたしが驚いていると、どうやらファッションとして両方使い分けているとのことだった。ライフスタイルかファッションか。このスタイルを考える上で、まずあがってくる問いでありテーマでもある。

気が付くと、イギリス人、アメリカ人、カナダ人、オーストラリア人とわたしで、英語で会話しながら、心斎橋を闊歩している。人類学者失格のわたしは、カメラを持ってきておらず、かわいい!欲しい!を連発し、結局お店で遊んでるに過ぎないトウのたったゴスロリコスプレの女に過ぎない。

彼女たちは連休を利用して、遠くから大阪のゴスロリファッションを求めてブティックを巡りにきている。われわれも後ろからそれを追いかける。疲れた。しんどい。家の中にある靴で一番高い踵を持ったものを履いてきたが、フィールドワークには合わない。友人は軽装だが、東京に帰るとかで、重いリュックを背負い、本格的なカメラを首からぶらさげている。

とりあえず知人のその女の子に聞いていたお店と手書きの地図を渡し、ここに連れて行ってくれ、と大阪のヴィジュアル系バンドにはまっているオーストラリア人の女の子に頼む。衣装は白X水色。透き通るように色が白いから、日本人の子たちとまた雰囲気が違う。わたしはゴスの白人は腐るほど見ていたが、ロリータの白人を見るのははじめてだった。髪に大きな花の飾りまでつけている。かわいい。というより、はまりすぎている。

「ノリコ、メンバーズカードがいっぱいになってしまって、新しいカードが欲しいの」と、これまでは通販でしか買ったことがなく、ポイントがたまりまくったカードを手にわたしに訴えるような目をしている女の子はアメリカ人。はじめてこの憧れのブティックに来たようだ。黒地でレースのついたエプロンドレスはチェリーの赤い果物模様である。わたしははじめて役に立つわ!と日本語で新しいカード作ったってくれと店員にお願いする。

この日行ったブティックは合計8店舗。もっとまわりたかったが、時間切れと体力切れ。最後は、Sweet Maidenという最近出来たらしいロリータカフェでお茶をすることになった。ここは今はやりのメイドカフェではなく、本物のお姫様になれるという、女の子のための夢見るカフェだ。メニューの名前ひとつとっても甘い。店で一番人気だというアリスのケーキを注文する。店員の女の子がほんとうに可愛い。わたしはほとんどメイドカフェに来ているオタク男子状態。

日本の少女が過剰に取り入れた西洋のファッションがひとつのスタイルになり、そのファッションスタイルを取り入れた西洋人の女の子に、日本人のわたしが案内を受けている。おかしな構図であるが、興味深い現象である。

わたしは店に入りやすいようにと精一杯のファッションをしてきた。袖がたっぷりとられ紺のリボンが縁取られたブラウス、これはヴィヴィアンウェストウッドの弟子ベラフロイドの作品で、何年も前に買ったがはじめて着用。ベロアの長いリボンのついた黒いボレロ、先日の乙女の会と同じベロアのパープルのパンツを着用。同行したイギリス人は半袖のTシャツにジーンズのラフで動きやすい人類学者らしい格好である。

3人のほんもの(?)のゴスロリ少女たちと分かれ、同行していたイギリス人と彼女が行きたがっていた店に二人で行く。和物のリメイクを中心にしたなんとも不思議な色使いや柄あわせ、一言でいえば御利益のありそうな衣装を作るブティックの大阪店だった。素材は日本のものだが、これは日本風でも西洋風でもない、あえていうならアジアとか、異変種と言ってしまったほうがいいかのような、不思議なファッションだった。

自認する彼女の優柔不断さは、30分近く一枚のパンツを購入するかどうか迷う、日本人並みあるいは日本人以上である。最終に打ち合わせするため喫茶店に入り、わたしは用事で先に店を出る寸前に、彼女が羽織ったのはヴィヴィアンウェストウッドのブランドである「アングロマニア」のジャケット、に違いない。わたしが持っているラインと同じデニム素材でデザイン違いのものだったからである。

わたしは最近このブランドをよく着るようになった。ヴィヴィアンウェストウッドへの思いは、深くて重くてむしろ暗いが、ふと、「いつかはウェストウッドの服がデザイナーの服を離れて、着る人=私の服になるように、上手に着こなせるときがくるだろうか」(『ロックジェット01 セックスピストルズ2000』)とかつて書いたことがあるのを思い出した。

汗ばむ陽気のなか、メイクもファッションもドレスアップして出掛けるのは、暑いし重いし動きにくい。おつきの人がいて、車で送り迎えされるから、歩かないでいい「ファッション」は、スタイルだけなのだ。夏の彼女たちに今年は注目してみよう。ベロアは暑い。プラットフォームシューズでは街を歩きにくい。わたしは何度も躓いて、大丈夫?と英語で手を差し出されながら、彼女たちについていった。

わたしが一番気に入ったのは、alice auaa。 http://www.alice-auaa.co.jp/

行くべしの情報もらっていた通り、素材がおもしろくデザインも個性的であり、店の内装もおもしろい。点数が少ないためメールオーダーで完売することもあり、東京のお店には商品があまり並ばないとのこと。結局ここは神戸発だということが店員さんとの話しのなかでわかる。『週刊ファッション情報』内にもリンクあり。http://www.fashion-j.com/bbs/alice.html

ロリータカフェのSweet Maiden。http://www15.ocn.ne.jp/~s-maiden/
わたしが行ったときは男性のお客さんもいたが、たしかカップルだった。

(2006,5,7)

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