No.2 (2007年6月)
6月某日 赤い服の人
海を見にいきたい
月も星もなく
薄い白、薄いグレー、薄い水色の入り交じった
海と空と砂浜の混じりあった 時間
白い波だけがはっきりしていて
わたしたちは薄い珈琲を飲み
あなたはさっき買ったいい香りを巻いて燃やし
わたしは貝殻を集めていた
オレンジ色の綱の切れ端を見つける
遠くの船が星のように煌めいている
いくつもの窓
赤い服の人
あなたは海に入っていく
スローモーションは人の体で作られる
時間を折って しなやかに
削ぎ落ちていくもの
海の赤
- 田中泯の場踊り(須磨海岸)を体験して-
6月某日 幸福の来港
やっと完成。英訳担当していた漫画単行本「四コマ 幸福番外地」(幻堂出版)の著者西野空男氏が神戸に来られて、彼を囲んでの小さな出版パーティ。サインをもらう。いちばん苦労した頁の中の一コマ、she is a really pretty girl ! な絵を描いてもらって喜ぶ。キャッチセールスやハンサム商法のようなビジネスは外国にはないのか、何度説明しても共訳者のアイルランド人にはわかってもらえなかったのだ。わたしは翻訳料を本でもらうようお願いしていた。その幸福本は、なかなか商品を売ってくれない新開地の古着屋で「モンクレールのダウンジャケット」と交換してもらい、飲み代や宿代にもなった。つげ義春が好きという可愛い学生も買ってくれた。さて明日はどこへ流れていくのか。わたしも詩を書いているが、共訳者も詩を書いている。パンク音楽を愛するわたしたちが訳したこの不条理漫画はどう位置づけされるのだろう。
6月某日 クラブの人種差別
パリでそんなことがあったらしい。客になりすました覆面調査を警察がやり、白人なら入れるが、黒人なら入れなかったとか。クラブは罰金を支払ったという。
パリはアラブ系やアフリカ系の有色人種が多く、その人らの音楽がかっこよくて、90年代に入った頃からパリは新しい民族音楽を引っぱる世界的な街として知られている。
なのに、なんでやねん、ってかんじで、かくいうわたしも、これは、うなずき、いきどおりで、ニュースに関心を向けたのが、ロンドンでおなじ目にあったから。
人種だけでなく、セクシャリティの差別もある。アイデンティティにはethnicity, race, nationalityだけでなく、gender, sexualityもある。
ある週末、ソーホーで、機嫌よく、仲の良かったアイリッシュの友人とパブへ行き、バーへ行き、最後クラブに行こうということで、列にならんで、わたしらの入場の番ってところで、わたしが止められた。
「彼女は大人よ!」と彼は言ってくれ、二人ともIDカードとして学生証を見せた。わたしがゲイではなかったからだろう、と彼はいった。もちろん店の人にははっきりそうはいわれんかったが。
Lesbian & Gay のイベントやその嗜好の強いクラブでも、ヘテロとかホモとかつまりセクシャリティに関係なく、楽しめるはずなので、ほんとうに腹がたった。今はヘテロに+黄色人種だったから断られたのだろう、とも思う。
手をつないで歩いていた彼は、これまで見た西洋人のなかでもとりわけ美しい人で、服のセンスもさりげなく、背がものすごく高くて、睫毛もマッチ何本乗るねんってくらい長くカーリングしている。ゲイであることはしゃべり方ですぐにわかる。
ほとんど女友達のようだったが、このクラブに入れなかったことが、わたしたちの幸せな週末に水をかけた。たしかに、男好きな男と手を繋いでいるわたしは、女好きな女には見えなかったのだろう。でも男好きな女という証明にもならいないはずだが、女好きな女に見えないという時点で、マジョリティに区分されるのは自然といえば自然。
差別も一筋縄ではない。アイデンティティは錯綜している。なくてもこまるけど、あるとふじゆう。
6月某日 新しい服
わたしより一足早く先に、交流戦に出掛けた友人に調査頼んだ。ファンも新しいユニフォーム着てた?グッズ売り場に売ってた?なぜ、今、タイガースのユニフォームをリニューアルするのか。わたしはそれを知りたくて、考えている。もう売っているとのこと。報告、ありがとう。
ある日曜日。阪神電車で出かける用事が夕方にあり、西宮駅から急行に乗り換え、電車が西宮発だったので、とても静かで車内で本を読んでいた。梅田行きの途中の駅、大勢の人がドアが開くのをいまかいまかと待ち構えているのが見える。今にも洪水が起こりそうな勢いで。押し寄せてきそう。甲子園、甲子園、甲子園球場前、だった。もの凄いエネルギーが車両に一気に溢れかえる。みんな元気なので、阪神は勝ったのだ。
わたしの隣にすばしっこく座った人はたぶんソフトバンクファン。わたしの前に立っている人は、彼女に話かける「ええよ、ええよ、今日勝ったし、座って、座って」。会話のなかではなにかと、「勝ったから、いいよ」を繰り返し、静かに本を読んでいたわたしも、あきらめて、彼ら彼女らのなかに紛れ込む。みんなほんとうにしあわせそうなのだった。わたしは大勢が降りる梅田ではなく、途中で降りねばならなかったが、ユニフォームを着た人々と別れるのがとても名残惜しかった。
そのときファンのユニフォームはまだ変わっていなかった。古い服の桧山や鳥谷やらでいっぱいで。新しい服はタイガースっていうよりドラゴンズっていう感じがしてしまうのはわたしだけだろうか。早く調査に行かなければ。
6月某日 四コマ漫画詩
大衆食堂の詩人遠藤哲夫さんのブログ内に幸福本の書評(と言ってもいい!)を見つけて、喜ぶ。ちゃんと英訳を本全体のなかで「読んで」くれている。こんな読者もいるのだ。彼の文章のファンだったこともあり、うれしかった。ちくま文庫の「汁かけめし快食學」は、食べるということは人にとってどういうことか、このおかしなグルメブームのなかで、つつましく、愛情深く、食に対して書かれていて、大好きだった。
6月某日 個展の準備を
勤務先の大学もとうとうキャンパスが感染源となったのか、他大学には少し遅れて休講になった。休校ではないので、教員や職員は会議などの仕事で、通常通り大学内に入れる。しかし授業がないので、比較的時間に少しは余裕ができる。
7月にやる「詩と服の展覧会」の準備を少しずつはじめる。わたしの個展なのだが、5人の作家さんの作品を軸に空間を配置し、その空間を言葉で繋ぎ一つの詩にしていく、という展覧会。コラボとも共同展とも違っている。
引き受けてくれた人から順番に簡単に紹介してみよう。大谷典子さん。彼女は草月流の師範でもあり、詩も書く人で、前衛にして伝統を愛する人、花の作品を出してもらう。渋谷萌園さん。古布を使ってつくる押し絵を出してもらう人、とても若々しくて80歳には見えず、わたしより感覚がモダンだ。佐藤貢さん。絵も描き音楽も作る人だが、わたしには彫刻家のような存在、2年前の彼の東京の個展でオマージュ詩を書いたことがあり、今回作って頂くものもそうだが「海からの漂着物を使うコラージュ」が定評。山本精一さん。以前もわたしの詩や文章にイラストを描いてくださったが、熱狂的なファンを多く持つギタリストで、音楽を作ってもらえることになった。戸田勝久さん。詩のことも音楽のことも詳しく、以前神戸での個展のための詩を書かせてもらったことがあり、それを手製本にもしてくださった多才な画家、今回は普段個展では出さないような絵を描いてくださるという。
ひとつの空間、ひとつの詩。まだDMなどはできていない。期間は7月27日から31日までの予定、期間中「着られる詩を作る」というワークショップも行う。会場は、本屋を以前営んでいたこともあるくらい本好き、藍染めの古い作品なども収集しておられる方がオーナーの、神戸の閑静な住宅街にある一軒家を改造した「ギャラリーAo」。最終の仕上げには、セントマーチンでファッションの勉強をはじめた自分の分身みたいな女の子にも手伝ってもらうかもしれない。