No.3 (2007年9月)
9月某日 倉庫のようなもんか
「イギリス文化」の校正原稿の宅急便が届く。結局4回に分かれて来て、本日のが最終便。遅れてもいいから、おねがい、メールやファックスで送らないでと祈っていたので、ほっとした。来たらどないしよう、とびくびくしてたら、ファックス音が。三井海運倉庫宛の請求書だった。以前はすごかった。毎日三井倉庫と間違われていたことがあり、そのせいでファックスが壊れたこともあったくらい。あとひとつ、ひさびさの本格的研究論文(ゴシックロリータ研究の三本目、もう終わりにしたい、三年越しのテーマ)を、やっと半分の文字数埋めることができた。残り20枚、雑用に忙殺されてるを言い訳に、勉強ぜんぜんせずにきた自堕落な研究生活のツケで、まったく進まない。全部夏の宿題だったのだ。家の中は紙の海。塔にした本が歩くたびに倒れる。
9月某日 たたまれた服
9月にパリで共同展がある。作品がほぼできあがり、今日他人にはじめて見てもらう。好感触につき、もう完成にして、ぎりぎりEMSで送ることにする。
タイトルは、yukata(hana)biraで、yukata(hana)bira yukatabira yukata hanabi....浴衣と花びらがいつまでも遊ぶ詩をカードに書く。二色で色違いの浴衣布の上に、イヤフォンとカセットリボン、キューピー石鹸、花のドレスの写真など、詩のお楽しみ袋のような作品。発送のとき郵便局のお姉さんがやさしくて、一緒に苦手なフランス語を訳してくれた。ありがとう、今頃飛行機に乗ってるかな。
9月末の締めきりの評論のことを考える。家族論だが、何で書こうかな、ずっと映画づいてたので、映画ででも、と思うけど、服の研究してること思い出し、やっぱり服で書かなければ、と思い、しかしそれより先に書かねばならないものが、タンスの奧にしまわれた服のように、着られるのを待っている。
皺になって着られなくなってしまわないように取り出そう。この論文に入る本にはイギリス人の知人も書くことになっているようで、そういえば彼女の撮った写真でいいのがあったなあ、と掲載許可もらう連絡をする(「オーストラリア人の甘ロリの女の子が大阪はお好み焼屋ののぼりをバックに映ってる」)。彼女は最近 「Tokyo Look Book」というかっこいい写真いっぱいの本を出した。
9月某日 テンガロンハットとチューリップハット
大阪市内は南部で育ったわたしは天王寺界隈に思い入れが深い。
先日はとりわけ大好きな場所、あべの銀座をふらふらしていたら
馴染みの焼鳥屋の夫婦にみつかり立ち飲み屋に拉致された。
ふだんは寡黙で気難しい大将はテンガロンハットで
声が天井までつきぬけそうな女将さんはチューリップハット
今日はオフで温泉に行ってて、その帰りということだった
アルバイトに入っている(仕事が終わるとすぐ客になる)青年もいたのに
通り過ぎても気付かなくて、聞き覚えのある底抜けに明るい声でわかった。
大将はおもしろいし、女将さんはかわいいし、みんなやさしい。
知らぬ間に他の常連客も加わっていて、皆で店への愛を語りまくり、
食べたり飲んだりひとしきりした後、適当な時間になると、はよ帰りや、と言われる。
最近知ったが、この大好きな場所「あべの銀座」がなくなるらしい
仔牛の脳漿フライ食べられた洋食屋とか、制服ではじめてデートした場所とか
想い出深いところがいっぱいあってあべのが変わっていくのがすごく寂しい。
再開発って誰のため?何のため?
9月某日 火を嗅ぐ
骨董屋さんでお皿を買ったときにもらった木箱のなかに、ペコロス(小さい西洋玉葱)と新じゃが(もはや新とちがう)が隠れていて、それらが腐って異臭を放っていた。冷蔵庫に入れない野菜はじゃがいもとたまねぎ、わたしは普段料理にほとんど使わないので、忘れられていたのだ(かぼちゃとねぎはよく食べ冷蔵庫にも入れる)。昨夜くらいから感じていたが、臭いの元は確定できず。すぐ取り出し捨てるも、その木箱のなかには実に色んな物が入っており、それらがどうにも復活しようがなく、すべて捨てる。ちょうど明日はゴミの日。しかし惜しいものが沢山あった。
そんななかに名刺が一枚。薄い紙なのに、とにかくにおいが強烈。先日久しぶりにお会いした方のものだが、そのときたまたま新しいのをもらっていて、わたしに火薬女になれと言ったその人は、5年前にはじめてお会いしたけれど、臭い名刺はそのときもらったもので、しかし、なぜこんなところに?ちょうど今日その人のことを思い出していたので驚く。においとは恐ろしい、窓開けて風を入れても、お香たいても、何やってもとれない。唯一生き残ってた好きな京都の喫茶店のマッチで、その人の古い名刺を燃した。そのとき火薬のイイにおいがした。
9月某日 脱
一つの体にどのくらいの服が着られるのか
一つの頭でどのくらい煩い続けられるのか
その答えを今日もらう
わたしは行き先を間違ったけれど
わたしははじまりの鈴に間に合った
切符を買ったから
それだけが理由じゃない
方違え 肩?他我?得?
9月某日 足踏みミシン
戦後の日本の映画や小説を資料にして、今調べ物している。ミシンが普及しはじめて、洋裁の内職が家庭を支えた時代、戦争未亡人が多く、家は困窮している。家族論を書くためだけれど、まだ雑誌資料が十分揃っていない。今日は近くの古本屋で婦人雑誌の付録などを集めてくる。
頼まれた仕事をちゃんとこなせばいい、そんなかんじで日々が過ぎていく。稿料などは多くを期待せず、一生懸命書く。わたしにとって書くことはいつも身を削りながらで。けれども、印刷物になってできあがってくると、疲れはふっとぶから不思議だ。
連休中に今年の大仕事が舞い込んで来た。来年にもかかってしまいそう。はじめての試みだが、本を編集することになった。わたしでいいのだろうか?曲がりなりにもこれまでいろんな編集者を見てきた。書き物を大切にする、それは人を大切にすることーそれだけは忘れないように、丁寧に仕事をこなそうと思う。
9月某日 のぞみすてずに
二年前の9月末、阪神タイガース優勝時の甲子園球場で失くして以来、携帯電話を使っていなかったけれど、今年の優勝かけた試合が次々に負け続きなので、勝利祈願もかねてやっと新しいのを買う。落とした一台目もずいぶん古いものを使い続けていたので、今のは音も光も眩しすぎて、ほんとうにやっていけるのか?と思う。
資料探しに出た馴染みの古本屋さんでいろいろ雑談。偏屈だと思われているようだが、ぼやいている店主はとても可愛い方だ。本をいろいろ買った後に、カウンターのショーケースにピストルズのライブ盤CD(花和輪一がジャケットのイラストを描きおろしてる)があったが、そんなの出てたの知らなくて迷うも、電話を買うために我慢した。
連絡があった友人たちと久しぶりに会う。しばらくして気付いたが二人ともカラフルなセルロイドのメガネをかけていた。今メガネ流行ってるもんなあ。そういえばメガネも買わないといけない。テレビもやかんもないし。行きつけの飲み屋さんにワイン持ち込んでスモークサーモンとうだうだやっていると、「優勝なくなったよ」と使い慣れない電話にメールが入る。のぞみむなしく。