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アンファッショナブル・ファッション日記 2008年2月

No.5 (2008年2月)

2月某日  不協和音に鳴るマンガ詩


後期授業の最終日。後期は出講日が4日で殺人的、また授業が4日間に渡ってまたがっており、緊張が取れない。週の真ん中に一限目の授業が二日間続き、睡眠もうまく取れない。週のはじめ月曜日は、途中で何をしゃべるのかすっかり忘れてしまったり、週の終わり金曜日になると、突然授業中耳が聞こえなくなったり。ああ、わたし、だいぶ疲れてるなあ、倒れるんじゃないか、と思いながら、日々を過ごしてきた。

日本人として英語を書き、世界とコミュニケーション(ネゴシエーション)するという授業。提出課題のひとつに、去年出た、わたしが翻訳した四コマ漫画の一ペイジを使う。「もったいない」という日本語が、世界で注目されて久しいが、彼らはそれをどのように訳すだろう。それも漫画のなかの台詞としてだ。

四コマでとりあえず完結するから、その小さな世界全体を理解する必要がある。キャラクター(情けない一労働者)を理解する必要がある。コミュニケーションできる英語(言葉)であることが必要である。学生はなかなか良く取り組んでくれて提出物を読むのが何よりの楽しみです。本が出る前だったら、いいのを採用してたりして。

というのは、共訳のアイルランド人(詩人でもある)とは長い時間をかけた翻訳作業中、色々大変なことが多かったが、この「もったいない」はすごくスムースにいいシンプルなフレーズが見つかったのである。さて、この漫画本ですが、翻訳料の代わりにもらったわたしの持ち分は、献本したり、服や別の本や飲み代や宿代の代わりになったりで、ほとんどありませんが、版元の幻堂出版やセミ書房にならきっと残っていると思います。神戸新聞誌上の1月最初の日曜朝刊では、京都国際マンガミュージアムの吉村さんがすごくいい書評を書いてくれています。


2月某日 薄く淡く澄んで高く舞う柔らかなスタイル


今年は「眠たい、忙しい」を言わない、と決めて、仕事する人というアイデンティティだけの人間としては生きないぞ、今年は遊ぶぞ、と決めたのだが、「遊ぶぞ」がやっきになってる感じで、遊ぶ事自体がストレスになります(なんでも必死になりすぎたら駄目ですね~)。

本日はしかし遊ぶ日です。楽しみにしていた「Mの会」(=本の秘密結社?)に出掛ける。わたしの一番の楽しみの目的はMのファッションプレート。ファッションプレートってなんか味気ないパタン化されたものも多いですよね。しかしMのは違う。芸術です。

Mは20世紀初頭を中心に本の挿画家として活躍したヨーロッパ人、また当時はイラストレーターという仕事はなかっただろうから、雑誌や絵本やいろんな絵を描いています。また舞台装飾などの場面にも仕事を拡げているので、そのスタイルはテアトリカルでもあります。そして、ファッションプレート。

本の秘密結社なので、Mの収集家の方の名前は明かされない。古いビルの一室が会場、集まったのは(到着した人順)詩人/ファッション研究者(わたしです、一番乗り)、製本家、画家、近代文学研究者/医者、造本作家2名、版画家、ライター/図書館員、雑誌編集者、コピーライター、全部で10人。

「Mの会」準備室が始動した際には2冊しかなかったはずなのに、本日は段ボール二箱分にわたる、Mの作品を知る事のできる古書の山、山、山。収集家の方は原書を読む勉強もされており、わたしはその衣裳、スタイル、時代について、ぜひ新しい研究テーマにしたいのです、と告白します。

この日のBGMを頼まれていて、何にしよかなと悩んで悩んで、半年ぶりにiTunesを使ってCDRを作る。しかし、もっていった白い盤には何の音も入っていなかったらしい(流していたらしいけど何も鳴らない)。流れているはずの音楽はモンポウのショパンでした。

本を眺める前にはまず手を洗い、できれば手袋着用。本を手に取って見るときは、しゃべってはならない。マスクを持参していなかったわたしは、首に巻いてたフォックスを口に当てながら、口の中に動物の毛が入るのに抵抗しつつ終始不慣れに拝見しました。ほんとうは、隣に座っておられた手袋とマスクをしていた造本作家さんが本を開くのを、横から見るように心がけていました(触ると手が震えるのです)。

会が終ると、お腹もすいて喉も乾いてきます。小さなパーティのはじまり。いままで見た事もない野菜が籠いっぱいに盛られ、本の代わりに色々なお酒がならびはじめます。小さな空間はもとから本の部屋であったかのように、本は本棚に移動してしっかりと立てられ美しい背を向けて並んでいます。若き小さき者であるわれわれをみているかのようです。

わたしは白ワインと赤のワインをまぜた飲み物に、星の形をした薄緑の野菜をスライスして浮かべ、ユベシと呼ばれる大きな物体から出てくる果汁を垂らし、スパイスを降りかけて、ミクソロジストになってみました。


2月某日 魅惑的な三日月


一人暮らしが長いのに食べ物を冷凍するのが嫌いで、アイスクリームと氷以外は冷凍室に何も入っておらず、冷凍食品も一度も買ったことがないのですが、先日実家に帰って冷蔵庫のフリーザーを開いたらギョーザの袋が面出しにつき大変びびりました。父はそういえばギョーザをよく焼いて食べてましたが幸い該当のものは食していなかったようです。

連日テレビのニュースで餃子事件が報道されるためスーパーで餃子の材料が良く売れているらしい。冷凍食品はさすがに買う気がうせるだろうから手作りしてでも食べたいということなのかな。

わたしも昔よく中国人留学生に教えてもらい皮から作った。小麦粉に水を入れ固さを調整しながら練って、ちょうどいい大きさを取って、掌でまるめながら、すりこぎなどで薄く円くひろげていく。みなでおしゃべりしながらやると楽しいし、自分の好きな具も入れられるし、何しろ餃子は材料が安上がりで皮の作りたてはもちもちしておいしい。

わたしはエビが好みで韮やニンニクはいれず小ぶりにたくさん作ってあっさりと酢醤油で食べるのがいいです。あとスープにも入れたり。そういえば旧正月で神戸は春節祭で盛り上がるシーズン。書いている先から餃子が食べたくなってきました。しかし中国の対応は最強なかんじで、解決まで長引きそう。月が餃子の形に見えてくる。食べたい。


2月某日 海から来たカラフルな宇宙


和歌山在住の造形作家佐藤さんの個展。日本橋商店会のなかにある宝石店を改造した大きく強いガラスが輝かしいショーウインドウを作る新しいギャラリー亜蛮人。ぎりぎり駆け込む。

佐藤さんの作品としばらく戯れた後、心がその空間のなか子供のようにたゆたう。わたしはそこで簡単に仕事を済ませる予定だった。来るはずだった知人は仕事で間に合わず、終った後に待ち合わせて打ち合わせ、といっても、あまり時間がなく、沖縄料理店に駆け込む。

大阪の日本橋は東京でいえば秋葉原、通称オタクストリートってのもあるんですが、わたしは噂に聞いた事のある古着物屋に行きたい。でも時間がなかった。残念。

海から流れる漂着物から作られる、大きかったり小さかったりする作品。スーパーボウルボトル(勝手に命名)が可愛かった。海の水のなかで浮いたり沈んだり傷ついたり滑らかになったりした球は、中心にある色を失わないでいるカラフルな小さな地球。そんなスーパーボールでいっぱいになった実験室にある古いガラスのような透明で不透明なボトルに入っているその作品が好きでした。欲しいけど、やっぱり作品の値段書いてないし。

去年の夏、自分の詩服展やってから、音楽が聞けなくなった。正しくは、そのとき作ってもらった京都在住の音楽家山本さんの音楽ばかり聞いていたのだ。そんなかんじで3ヶ月ほど経った頃、佐藤さんが送ってきてくれたCD(たぶんレコードから録ったもの?)には大好きなロバートワイアットの声がたくさん入っていて、長い眠りから目が覚めた。山本さんの音楽は多岐にわたっていてたくさん聴いてきたけどどんなものでもわたしは興奮する。しかし夏の展で作ってもらった音はわたしの不眠症を解消してしまい、それからは別の音楽に興味がなくなってしまった。自分の自然音になってしまっていたというか。

タイトルはRock vol.2。タイトルもミュージシャンもわからないものが多いですが生命エネルギーに満ちた色んな声が入っていました。とりあえずわたしは起きました。


2月某日 セルフセラピイ


中島らも原作のプロレス映画「お父さんのバックドロップ」が昨夜深夜にテレビで放映されるというので、とても楽しみにしていたが、ものの15分もしないままに眠ってしまい、明け方ジャパネットたかた社長の張った声で目が覚めた。神戸も今年は雪が結構降っている。今朝はすっかり晴れで青空がひろがっているが、また午後から空が暗くなり、ちらほら。

雪は積もるとあんなに白いのに、空から降って来るのをじっと見ていると、泥のように見えます。真っ白でなく薄雲のような色合いです。しばらく泥の花に似ているなあと雪を見ていた。ひさしぶりに友人に電話する。風邪をひいてしまっているようですが、なんと東京マラソンに出るらしい。マラソンなんて何でするの?と聞いてしまう。彼女は臨床心理士で最近体調がすぐれないわたしを気遣ってくれる。友達という立場は診療はできないらしいが。

アクシデントで(ほんとうは機能からいえばアクシデントでもなく)パイプオルガンに知らぬ間になっていたわたしの古キーボードでバッハをやっていると、ものすごくうまく聞こえます。オルガンの音は倍音みたいになるので耳に心地よい。そしてキーボードのタッチも重くなっているようで、ピアノのようでもあり、セラピイのようでした。

オールレーズン、ハーベスト、ハバネロ、と、東ハトのお菓子ばかり食べていることに気づく。今はまっているチョコレートを練り込んでいるしっとりクッキーというコンビニとの提携商品も東ハト製造のもののよう。ふだんお菓子をほとんど買わないのですが、わたしと至極相性がいいようです。そうそう、東ハトは最近忍者Tシャツというのを発明(!)したのです。被るだけで忍者になれる、スグレモノ。欲しい。コスプレじゃないよ。ほんとになりたい。


2月某日 教えてね。


授業を終え、試験を終え、採点作業。これがなかなか大変です。最終的には評価として点数はつけなければならないが、学生の答案を読むのは楽しみでもある。レポートが期限までに間に合わないので、メールで送りたいという学生がおり、それならば、とサービス精神で、残りの学生にもメール添付ファイルでも可能と連絡。それが、面倒のはじまりだった。

最近迷惑メール機能などが過敏過ぎて、見た事もないメールアドレス(新しいやりとり)が舞い込んでくると迷惑メールフォルダに自動的に入れられたりする。届いていない学生が多いので気になって、普段の彼らは携帯電話のメールしか使わないのでリアルなやりとりをしているうちに夜4時間くらい潰れてしまう。迷惑メールフォルダからレポートがぞろぞろと出てくる。もう二度とメールでの提出は受付けない。

ただいま東京です、という学生からのメール。ひとしきりレポートの話した後、「今東京で何やってるの」と聞くと「就活中ですが、せっかく東京来たので今夜は東京でしか見れない轟音変拍子のライブに行ってましたー」と返事。「これぞわたしの学生!」とわたしもうれしくなり、轟音変拍子?高円寺?なら、このライブハウス?などと、しばらく雑談メール続く。

たぶんわたしの好きそうな音ではないかと、バンド名を尋ねると「ふくろ」。ネットで検索するとサイトがあって、試聴したらかなりのかっこよさで好みです。学生から教えられること多いわあ。それ聞いて彼の好みわかったので、こんなん聞いてみたら、と、勝手なレコメンでもしようではないか。わたしは教えることを仕事にしているが、威圧的で一方的なのが大嫌いなので、こんなかんじで、インタラクティブに、楽しいところから入っていって勉強。楽しいのはとにかく脳にいいらしいよー。


2月某日 着物にこころ華やぐ


ここのところ着物周辺がにぎやか。神戸や大阪などで着物展がさかんに開催されている。神戸のファッション美術館では「大正昭和のおでかけ着物ー華やぐこころ展」が京都古布保存会の企画で始まっている。わたしひとりでは心もとない。それで着物を自分で着る詳しい人と一緒に行くが、実に色んな見方を教えてもらえる。展示の仕方、着付け方、毒舌な印象もたくさんあるが、それが心を踊らせてくれる。好きだからこそ黙ってられないのだ。

ご一緒した磯さんとは去年、戦争柄から見る着物を語るという別の講演会で十何年ぶりに再会し、出会った当時は二人とも院生だったのだが、そのとき個性的な着こなしが目立っていたこともあり、あ、あの人、絶対知ってる、と思い、声をかけたのだ。磯さんは、いつのまにか専門家と言えるほど着物のことに熟知しておられる。彼女は、個人の持ち物から時代や生活習慣を豊富な資料と具体的エピソードで紹介する「大村しげー京都町家ぐらし」という話題の本の共同執筆者でもある。

青木美保子先生の講演会もおもしろく、文学テキストから着物(着るもの)やスタイルの変遷を読もうとする研究を始めているわたしの興味にも重なり合うところがあった。当時の文学者たちの中には女性雑誌や着物柄の流行にまで、作る側への啓蒙的立場として関わっていたりする者もいるのだ。中京大学の評論誌『八事』の最新号に、その序奏になるような小論を書きました。発行されたら、またこの場所で詳しくお知らせを。

さて、磯さんの着こなしは個性的でチャーミング、小柄であることもありアンティーク着物がよくお似合いだったが、ご友人の久保浦さんはアップにまとめた髪といい背も高いので、姐御!という感じでなんか渋い。わたしは初めて見た時から、帯留めが気になっていた。ドラゴンですか?トカゲ?なはずないですよね?すいません、などと、初対面なのに無礼な質問をする。黒地に金の龍で、「ななこ」という細工がされた江戸初期から中期のもの、刀職人の仕事を現代の帯留めにしたのだそうだ。うーむ、かっこよすぎる、、、。

着物を着ていくと入館料が無料。わたしは着物展で着物着ていく勇気がでず断念。講演、展示を見たあと、お茶を飲みながら、いつまでも、いつまでも、着物の話をする。ほんとうに女って着るものの話が好きよね。楽しいわ。ってなかんじで。わたしにはいちいち勉強になる。こういう雑談のなかで研究の種みたいなのがうまれてくる。男性的(攻撃的)な討論とかは得意ではないのだが、批評性はじっくり楽しい会話をもちかえって時間をかけて寝かせて鍛えていけたらなあ、と思う。磯さん、お話されてたいい履物屋さん、いつか連れていってくださいね。

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