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脱いでしまいたい、あるいは、服そのものへ!

小野原教子

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vol.39 新しい時間 ― 2005-6 A/W ロンドン報告 (2006,Feb,7)


4ヶ月の在外研修も終わり帰国してまだぼうっとしている。もともと写真を撮るのは苦手なのだが仕事として最低限必要な撮影を済ませ、案外たまっていたので整理しなければと思っているところで、ファッション論にてロンドン報告。今回所属していたのはロンドン大学の最古のカレッジで、そこの図書館と、ロンドンにある美術館を中心に資料収集を行ってきた。イギリスとしては一番厳しい季節に当たっていたこともあるし、個人的にはいろいろと大変だったけど、いい友人が沢山出来て実り多い時間になった。

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受け入れ教官に紹介されて住むことになった家は、生後6ヶ月の赤ん坊が居て、可愛いけれど夜泣きがひどい。中学一年生はじめての中間テスト以来の不眠症に陥り、結局2ヶ月で引っ越し。辛かった。いつも眠くてどこでも居眠り。睡眠はほんとうに大切だと実感。お母さんもファッション研究者で、Elle Decoに出てきそうなお洒落な家だったし、赤ちゃんも可愛かったけど。

さて写真。ロンドン一番のショッピングメインストリートであるオクスフォードストリートにあってロンドン・ファッション牽引の不動の位置にあるといえるトップショップTOP SHOPでは、マタニティウェアのフェアをやっていた。ショップの中の写真撮影はだめということでウインドウのみ撮影。マタニティには考えつかない軽やかなスタイリング。こんな服なら妊婦さんになってもいいなと単純に思う。

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ロンドンはバブルと噂には聞いていたけど、テムズ河沿いには高層マンション、コックニーで有名なロンドン東地区を中心に建築ラッシュ。オリンピック開催地にも選ばれたということもあり。わたしの所属する大学のキャンパスも例にもれず、至る所で新しいビルを建設中。九年前に通っていたこともあるので、もはや自分の好きだったカレッジではないと古めかしさへのノスタルジー。

そんな思いでキャンパスを歩いているとき、長身でひときわ目立つ女の子発見。たまたま日頃持ち歩かないデジカメを持っていたので撮影させてもらった。インナーのTシャツは日本のアニメをモチーフにしたものだということ。好きなんだって。MANGAはもはや世界共通語。わたしの今研究しているKIMONOも同様。

彼女も履いてたけどレッグウォーマーのありがたみはわたしも今回再認識。好きな毛糸をいろいろ買ってきて引っ越した先の編み物得意なフラットメイトの中国人に編んでもらい、服に合わせて愛用してた。

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写真がまずいですが、Thames & Hudsonという出版社から上梓されたPacific Patternという南国のテキスタイルの研究書の出版パーティが大英博物館で行われ、招待されて出掛ける。写真が綺麗な本なのだけれど、その写真家も出席していて、写真も合わせて展示。おまけに現地の方達が来られ、生演奏と踊りが見られるという。なんというぜいたくな出版記念会!ワイン飲み放題で、やや酔っぱらい、演奏終わってから、楽器に触らせてもらった。南の島に行きたくなる。

本についての情報はこちら。http://www.pacificpattern.com/pp.htm

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優秀なキュレーターは限られた時間内に研究者に合った資料を見せてくれる。この着物一本で論文書けそうな勢いのわたしだけれど、まだ手を付けていない。早く書かなくちゃ。ということで、美術館にて。大好きな着物と大好きな学芸員。自分がすごいのではなく、美術館や博物館の持ち物がすごいということを優秀な学芸員はよくわかっている。その辺勘違いしているキュレータは多いけどなあ。

ちなみに手袋がなぜ紫なのかそれに意味があるのか聞いてみたら、そういえば去年はクリーム色だった、ただのファッションだと思う、と。こんなところにもコマーシャリズムか、と感心。彼女はこのセクションから出て、もう別のところに行ってしまったが、Stay in touch! 出逢いは大切だ。一緒にロンドンを17マイルも自転車で走ったこともあり。

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ロンドンでおもしろいのはマーケット。金曜はデザイナーの卵が集まるといわれる今一番熱いらしいロンドンはイーストエンド辺りのスピタルフィールズSpitalfieldsマーケット、土曜は世界の一流食料品が集まるロンドン・ブリッジに程近いバローBoroughマーケットへ、日曜はカムデンCamdenマーケットがいいかもしれない。

はじめてのロンドン、パンクロックが好きだったわたしは、コンサート会場でボディガードのバイトをやっているというでっかくてスキンヘッドでいかにもな強面の男の子に頼んでカムデンへ連れて行ってもらった。18年前。その時も日曜日だった。まだ今でも辛うじてパンクスが残っていると言われているのがこの街。今回の在外研修の目的のひとつでもあるイギリス伝統ファッションの再解釈ゴシックロリータの資料収集になるものを探して友人の紹介でここへ。

ゴスっ子達の希望の星であるだけでなく、オリジナリティに溢れて十分ファッショナブルなblablahospital の服。デザイナーは日本人の女の子。サイトでも買える。お客は患者。わたしたちはファッションという病気にかかっているのだ。研究の合間にわたしは詩の朗読をロンドンのギャラリー、パブ、教会のカフェなどでやってきた。一度一緒にセッションしたイギリス人のギタリストはステージ衣装にたまたまこちらの服を着ていて驚いた。取材しているときも商品でいっぱいの小さなお店にイギリス人が出たり入ったり。

―「日本の女の子に着てもらうのがいちばんうれしい」―とは、日本でファッションを勉強していたこともあったが、息苦しさを感じロンドンで勝負に挑んだデザイナー兼ショップオーナーの彼女の言葉。サイトもある。

http://www.blablahospital.co.uk/

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世界的に日本ブームなのか。イギリスでも日本料理店はファッショナブルで、日本的なモチーフがプロダクト・デザインとしてもポピュラー。ここはデンマークのコペンハーゲン。旅行嫌いのわたしが、このくそ寒いのに1月開けてすぐ、いざ北欧の街へ。ソウルでファッション写真をやっている韓国人の友人に連れられて行ってきた。

ロンドンはヨーロッパへ旅に出るのに最も便利な拠点となると言われている。1988年以来、何度も何度も訪れているのに、ロンドンからはフランス以外の国にいったことがない。エントリーには間に合わなかったが、コペンハーゲンは秋にファッション研究の国際学会も開催されたところ。街自体がこじんまりしていて、タクシーやバス、駅などの建物、お菓子などのデザインがとても可愛い。夏に行くべきところかもしれないなあ。本屋の写真ばかり撮ってきた。その一枚。みんな英語が堪能。

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イギリスの象徴といってもよさそうな二階建ての赤いバス。旧式のRoutemasterというこの50年の歴史を持つバスがこのたび廃止になり、その最後を見ようと、たくさんの人が集まった。わたしの住んでいた町ブリクストンから出発する159番のバスが最終運行だった。起きてパソコンを開くと日本の友人からメールでその旨連絡が来ており「写真撮ってこい」とのこと。携帯電話を見るとフラットメイトから「早よ見においで」と外からメールが入っている。

眠気眼のまま駅の辺りに出るが、結局ストラットハムの車庫まで行っているらしい彼女を追いかけバスに乗る。財布を持ってくるのを忘れ、ポケットに手を突っ込み小銭を探そうとするが「最後だから、運賃はいいよ」と車掌が機嫌よく声をかけてくれる。降りるとすごい群衆。植え込みの柵に上って高いところから友人を捜すがなかなか見つからない。隣でハンディカムを抱えているおじいちゃんが泣いている。子供の頃の思い出はルートマスターと共にあるんだよ、と言っていた。道路の真ん中で写真を撮りまくっている友人を発見。

新しい時間のはじまりだ。さよなら、ロンドン。至る所に防犯カメラのある街。いつからバスの運転手も警察官と同じ蛍光色のジャンパーを着るようになったのだろう。スコットランド人であるかつてのフラットメイトは、紫の自転車をわたしのために入手してくれた。けれど、車道を走る自転車乗りもまた、この蛍光色の服を着なければならない。悩んだけれどわたしはその自転車に乗らなかった。ロンドンの物価は高く、地下鉄なんかにはとても乗れない。どこへでもバスを乗り継いで出掛けていった。また、会う日まで。

(2006,Feb,7)

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